コーヒーの協会が主催するコーヒーを含むカクテルを作る大会があります。
『ジャパン・コーヒー・イン・グッドスピリッツ』。略してjcigsc。
コーヒーを使ったホットカクテルとコールドカクテルを2種類、2杯ずつ作ります。
私はフレアバーテンダーで、コーヒーにも興味があるので出場しました。
今回で4回目なんですが、その練習過程を記事にしてみます。
その1~要綱発表
2015/11/16に概要が発表されました。
日程は2016/1/7(木)、8(金)が東京、1/12(火)、13(水)が神戸で予選が行われます。
募集人数は東京30名、神戸30名、申し込みが11/16~12/14で先着順です。
結果として東京が21名、神戸が13名でした。
参加費はscajの会員は10300円、非会員は15400円で、決勝で優勝すると10万円の賞金が出ます。決勝進出は6名、2/16(火)の東京ビッグサイトで競われます。
また、優勝すると世界大会の日本代表選手になります。
11/16には競技ルールやスコアシートなどが発表されますが、使用しなければならないシロップやスピリッツはまだ発表されてないので競技を組み立てられません。今回は12/1にシロップがモナンに、スピリッツがカンパリもしくはアペロールに決まりましたのでそこから本格的に練習が始まります。
12/7に予選大会の競技台サイズとエスプレッソを使用しなければならないことが追加発表されました。と同時に使用マシンがランチリオであることがわかりました。
募集人数に達してないのは内容の複雑さや知名度の低さなどでわかりますが、今回から予選日が各会場1日から2日に増えたので出場人数は去年より増えていますね。
エスプレッソマシンは去年までダラコルテだったのが今年はランチリオになりました。バスケットの大きさ、深さが変わるので使用タンパーサイズも53mmから58mmへと変わりました。正直マシンの違いによるエスプレッソの味の出方の違いはまったくわからないコーヒー初心者(そんなにいろんなマシンを触った事がない)なのでノープロブレムです。
ただ、去年は1月の後半が大阪での予選だったので今年は年明けすぐか、、、、結構時間がないな。しっかり準備をしようと心に誓いました。
その2~アイデア(ホット)
毎年細かくルールが変わるこの大会、去年はコーヒーの抽出にエスプレッソを使わなければいけないところ勘違いをして使わずに作ったので大幅減点、結果もダメだったので今回は絶対にエスプレッソを使うことに。
ホントはどちらかひとつにエスプレッソを使えばいいんですが、抽出時間と手順の少なさではエスプレッソが一番なのでホット、コールド両方ともエスプレッソを使うことを決定。
ただ、一つ問題がありました。
それは、僕がエスプレッソをお湯で割るアメリカーノを好きじゃないということ。
なのでホットは他の抽出方法も考えてみました。
ホットコーヒーを飲むときは僕は基本ドリップでいれています。
見た目のきれいさや舌触りのスッと入ってくる水のような触感から感じられるコーヒーのクリアさが出るドリップが好きです。でも以前の大会で使って自分なりに美味しいカクテルを作ったので却下。
サイフォンは熱すぎるのは勘弁して欲しいと思うんですが、、香りやフレーバーの出方が素晴らしく、魅力です。が、いかんせん使った経験がなくてとても大会に間に合いません。なので却下。
エアロプレスも面白そうですが、検証時間がかなり必要。時間が間に合いそうにないので却下。
なので、やっぱりホットアメリカーノしかないのかな?でも美味しいとは思えないし、どうしよう?と考えながらカフェに行っていろんな人に「ホットアメリカーノって美味しいんですか?」と失礼な質問を連発しながらアメリカーノを頼み、飲んでました。
ちなみにエスプレッソを水で割るアイスアメリカーノは好きです。何なんでしょうね、これ。
その中で、これなら美味しいなと思える一杯に出合ったことでアメリカーノでも美味しいものは作れるということがわかりました。なので、ホットもエスプレッソで抽出することに決定。
その3~アイデア(コールド)
エスプレッソはコールドカクテルは非常に使いやすいです。
そのまま飲むとかなり酸っぱい!と思えるエスプレッソはカクテルにおける酸味として利用でき、しかも量が少なくて味が濃縮しているのでかさも抑えられます。なのでコーヒーの抽出はこれでOK。
ただ、今回はスピリッツにカンパリもしくはアペロールを使わなければなりません。もちろん、ホットにそれらのどちらかを使えばコールドは好きなスピリッツだけでいいんですが、スポンサー的に両方使った方がいいんじゃないかと。じゃあ、カンパリしかないなと。
なぜアペロールを使えないかというとアペロールは注ぎ口が特殊でポアラーが刺さらないんです。そのまま使うとカウントが出来ないのでメジャーカップが必要になる。動きのダイナミックなフレアを入れて、そのまま注ぎに持っていきたいのでポアラーは付けたい。じゃあカンパリしかないなと。
そこでカンパリを使ったカクテルの研究をしばらくしているうちに、そうだ、アメリカーノがあるじゃない。そこでピンと来たんです。アメリカーノをベースにしようと。
コーヒーのアメリカーノとカクテルのアメリカーノはレシピが違う。
これを合わせてコーヒーが入ったカクテルのアメリカーノと、カンパリが入ったコーヒーのアメリカーノを作ろうと。
言ってみればダジャレですが、面白いかなと。
その4~アイデア(コーヒー豆)
コーヒー豆はカンパリが柑橘系との相性がいいのでケニアの柑橘っぽさがはっきりとわかるフレーバーを出せばいいのかなとあまり深く考えることなく選択しました。これも、いろんな豆で試して飲み比べをしたら新しい発見があるのかもしれません。時間の関係で消極的ですがまぁ間違いはないだろうという見立てでケニアに決定。
その5~レシピ決定
内容物はこの時点でホットカクテルがエスプレッソ、お湯、カンパリ、モナンのシロップ(フレーバーは未定)、コールドカクテルはカンパリ、スイートベルモット、ソーダ、エスプレッソ、何かのピール(香り付け)というものに。
そして12/25(もうそんな過ぎて!)にいつもお世話になっている奈良のロココでレシピを決定。
まずはホットカクテル。コーヒーのアメリカーノ(エスプレッソ+お湯)の割合が1:4~1:5がいいということは以前の研究でわかっていたので1:4をベースにカンパリを30ml入れて試飲。うん、悪くない。
甘みがあったほうがいいのでそれに砂糖を入れてその味をベースに砂糖の代わりにモナンのシロップを青リンゴ、パッションフルーツ、ストロベリー、ラズベリー、ブルーキュラソー、さくらと調べてみて意外によかったさくらを1tspに決定。そしてオレンジピールをするとさらにいいのでこれも採用。
コールドのカクテルはまずはカンパリ30ml、スイートベルモット15ml、ソーダ60mlにエスプレッソ1shotとスイートベルモットを30mlのものを飲み比べてスイートベルモットを30mlに決定。ソーダを減らしたり戻したりしながら結局60mlでOKだということに。
そしてホットでさくらを使ったのでピールは日本しばりでゆずに決定。
でまぁどちらも飲んでみて「あ、美味しい」と思える味になったのでこれから3週間でMC(しゃべること)憶えて流れを組んで本格的な練習に入りました。
この時点で当日着る服もこれでいこうと決定。
その6~MC憶える
今回使ったやり方はこちら。
まずは原稿を紙に書き、しゃべれる長さと予想される動作とのバランスを見て推敲します。
書いては読んでみて詰まるようなところがあればすらすらと言える言い回しに変更。
しゃべる内容はこちら。
自己紹介(名前・所属)
テーマ紹介
コーヒー豆紹介(名前、フレーバーの内容、焙煎プロファイルなど、なぜその豆を選択したのかの理由)
スピリッツ紹介、分量(レシピ)
シロップ紹介、分量(レシピ)
まとめ
そして以下の手順で覚えました。
①(18日前)紙を見ながらひたすら声に出して読む(150回/4日)
-ここですらすら言えなかったら次には行かない。慣れてくると口の体操も兼ねてどんどんスピードアップする。
②(残り2週間)ヴォイスレコーダーに吹き込み、紙を見ずに耳で聞いてひたすら声に出していう(150回/2日)
-ここでも憶えるというよりはただ耳に聞こえてきた声に合わせてひたすらしゃべる。紙を見なくてもいい分、他の作業をしながらできるので短い時間で繰り返す事が可能。
③全く見ずに、思い出しながら声に出して言う~動きに合わせて声に出す(100回/5日)
-ここで思い出しながらするので一気にスピードダウンする。まずは言葉を覚えて徐々に動きとあわせていく。
④(残り1週間)③の続き。徐々に考えなくても言葉が出てくるようになる。
その7~動きを憶える
MCが安定してきたところで動きに無駄がないか、物を置く場所は本当にそこでいいのかの検証に入ります。慣れるにしたがって実際にカクテルも作ってみて試作どおりに味が仕上がっているかどうかもチェック。
その8~準備物の確認など
動きを憶える時にカクテルの見た目もどうすればいいのかを研究しました。この時に和の材料(さくらのシロップ、ゆず)を使うので和的なデザインの器などをネットや近所の店舗で探しました。そうして徐々にはっきりとした形にしていきます。
今回は実際のエスプレッソマシンを使っての練習はレシピ決定に1回、通しの練習に3回の計4回です。これは少ないでしょうが、問題はありませんでした。
そして当日を迎えます。
僕は仕事柄いつも土日祝に移動する事が多いので同じような感覚で行くと平日の朝は全く違っていました。混んでる。曜日によって交通量など変わるので移動もしっかり考慮した方がいいですね。精神安定上。
なんとかぎりぎり会場に間に合い、荷物の移動もろくにせずに選手ミーティングに。その後マシンとグラインダーの説明を受けました。
出番は3番。1時間ほど準備をしてから練習の15分を迎えました。
この練習の最大のポイントはメッシュ調整。
借りるグラインダーの数値を調整して自分の思い描くエスプレッソの味にする作業です。
通常バリスタでしたらお店のグラインダーを持って来てそれを使います。
使い慣れているので動作はもちろん、メッシュ調整も大体出来ている状態で会場にはいります。
このメッシュ調整、僕のようなバーテンダーはグラインダーを持っていないので会場のものを借りるんですが、これがなかなか難しいんです。
そもそもメッシュの合わせ方もいまいちわかっていないので練習で出ていたエスプレッソの出方のように調節しようとするんですが、どうしても練習のときのような味になりません。
練習のとき、カフェでマシンを借りると既にいい感じにメッシュが合っているのでそんなに調整する必要がないんです。「もうちょっと酸味を強く」などと言えばじゃあ、こうしましょうってやってもらえますし。大会当日にカフェのスタッフでメッシュ調整が出来る人がサポーターにつけばもうちょっとこうやってと練習時にアドバイスをもらえるので問題ありませんが、そうじゃない場合は自分で出来なければダメですね。
いまいち決まらないまま練習の15分が終わり、本番の準備をします。これがまた1時間ほど。
飾り付けや流れの確認、忘れ物がないか、本番セッティングの確認事項などを再確認します。
そして本番。
セッティングの5分間は物を並べて、1回エスプレッソを抽出したら終了てな感じのシビアな時間です。
その後すぐに本番の8分間が始まりました。
はじめは落ち着いて自分のペースで出来ていたんですが思わぬ落とし穴が。
今回のホットカクテルでは徳利を使い、その徳利にカクテルを入れるときにはかりで計測しながら等分するのですが、右側のはかりの単位がグラムじゃなく他の単位になってました。
多分左端のオンスイッチの隣が単位変更ボタンなので間違って触れてしまったと考えられます。
でももう既に注ぎ始めている。後戻りは出来ない。
なので練習で注いでいたくらいの分量を頼りに注ぎ分けることに。
確認のため持ってみたのですが、明らかに片方が多い。。
でももういいや!って提供しました。
それが第二の間違い。
本当は提供する前にオレンジピールをするはずだったのですが、その単位違いに動揺して忘れていました。気づいたのは一つを提供した直後。もう既に審査員が飲み始めているので一瞬考えてもう一つもピールせずに提供しました。
ここで挽回のチャンスはあったんです。
お盆に載せて提供したのですが、お盆には月に見立てて丸くくりぬいたオレンジピールがあったんです。なぜその時にそのオレンジピールを使ってピールしてもらわなかったのか。この一瞬の瞬発力がなかったのが悔やまれます。正直、このとっさの判断が出来なかった自分は、この大会に出る資格はないとまで後で落ち込みました。もちろん、その場合のお手拭なども準備できていなかったのでしてもらったらフレーバーは問題ないけれど、サービスの面での減点はあったと思いますが。
それ以降は特に問題なくこなせました。
ただ、その単位が違っているときにしゃべっていた言葉が途切れ途切れになりちゃんと伝わってなかったですし、そもそもエスプレッソが自分の思い通りに抽出できていたかどうかも不明です。
やっぱり本番は練習では考えられなかった事が起こるのは当たり前で、それに対応しきれなかった自分がなさけないなぁ、まだまだやなぁなんて思うわけです。
つまり、今回の動きの反省点はこちら。
・ 計器類を扱う時にはしっかり単位があっているかを始める前に確認する事、使う時に再確認する事、違っているときにすぐに修正できるようにしておくこと。
・ お盆にピールを飾りで置いておくのは何もなければ飾りでいいし、何かあれば使ってもらうのはいいんだけどそのフォロー(お手拭き)の準備などは予めやっておくこと。
MC(しゃべり)についてはもう1週間あればまず大丈夫になりそうだから1ヶ月前にしゃべりを決めておくスケジュールにするか、毎日の練習時間を増やしてもっと回数をこなすかで対処できそうです。
これと他の選手の演技を見たものを元に今回の3つの敗因としてまとめたいと思います。
① コーヒーについての勉強不足
・ エスプレッソについてこの味が自分が「美味しい」と思う、そのポイントをとらえ切れてない。
・ そして、そのポイントに現状からどうもって行ったらいいのかが理解できていない。
・ なので自分の出したい味が不明確(あやふや)でしかも再現できてないのでサポートなしではその味を再現できない。
→これは致命的です。メインとなる材料の品質・内容に問題がある状態でカクテルを作るのは、どう考えても得策ではありません。
コーヒーの抽出のプロをサポートにつけて抽出の失敗をなくすか、または自分でその抽出方法を会得するかしか解決策はありません。
バーテンダーはこの時点でかなりの不利な状態であることを自覚し、その解決方法を持っておかないとこの大会で結果を残すのは厳しいといえます。特にエスプレッソマシンを使わなければならない年の時は。
□ 器具の使い方は不慣れでも出来ない事はない
→タンピングの不安定さによる味の違い
→タンピングの強さによる味の違い
→ドーシングのやり方(慣らし方)による味の違い
→→→そんなに違いはないのか、すごく味が変わるのか。これは予め検証期間を設ける事でそれほど問題になるとは思えません。
② 道具の習熟不足
・ 大会の為に新たに購入して普段使ってないものであれば突然のトラブルに対応できないので出来るだけふだん使っているものを使う。また、新たに使うものであれば出来るだけ触れて慣れておく。
→やはり普段使っているもので大会に臨むのは基本中の基本ですよね。「何か新しいものを」と考えるのはいいのですが、直前に思いついたもので作り上げるのはある程度のリスクがあるのは覚えておかなければなりません。
□ フリーポアやハンドメジャーに慣れておけばそもそも量りも必要ないのでピッチャーの中の量を等分したり、エスプレッソの抽出量を目測で量れるトレーニングをしておくといい。またソーダのハンドメジャーなども普段のトレーニングに取り入れるといい。
③ 驚きがない
・ 大会なのでもっと新しいものを提示できるように普段からいろんなことにチャレンジしないとダメ。触感を変えるために食材を使うとか、もっといろんな器具を試してアッと驚くドリンクに仕上げないとインパクトがない。今回はシンプルにただ合わせただけだったので何の感動もなかった。「おぉ!なるほど!」と思わせるようなそんな切り口をいくつも組み込まないと。
→これはまず突拍子もないものをする前にカクテルを作る基本、どうすればより美味しくなるのかをスタンダードで研究する必要があるとこの一年思ってカクテル日和を書いていたので平凡なのは仕方がない。
ただ、その中でも今のカクテル日和を通して学んできた事を大会に持っていけたことは良かったと思っています。これからはカクテル日和でもっとコーヒー、エスプレッソの抽出について掘り下げていけばいいし、どんどん新しい事を学んでいけばOK。その上で毎日のトレーニングできれいで無駄のない所作をしっかり身につける。そして、MCと動作の組み合わせをもっと普段から取り入れるように。そうすれば普段のカクテル日和の延長で面白い提案が今後出来ると思われます。
(2016/1/20)
決勝進出者が発表されました。
そこに私の名前はなく、今回のチャレンジは終了しました。
順位は9位(35名中)。決勝進出者は6名なんで、まぁダメでしたね。。。
来年以降大会に出るかどうかは未定ですが、今回の反省点をカクテル日和に生かすために以下の記事を増やしていきたいと思います。
①コーヒーについての勉強
②驚きの切り口を出せる新しいチャレンジ
さぁ、まだまだ「美味しいドリンクを作れるようになる」チャレンジは続きます!
岩本博義